標高599メートルの高尾山。上沼恵美子さんではないけれど、「高尾山は私の庭だから!」と言っては、よく友人を笑わせました。八王子で生まれ育った私にとって、高尾山は遠足には欠かせない馴染みのある山です。コロナ禍前は、年間300万人ともいわれる人々が世界中から訪れていました。まわりは外国人ばかり、まるで海外に来たのかと錯覚を覚えるほどでした。
その高尾山が、昨年6月に日本遺産に認定されました。全国で88番め、東京都では唯一の認定です。日本遺産は、地域の歴史や産業を結び付けて日本の文化や伝統を語るもので、タイトルは「霊気(れいき)満山(まんざん)高尾山(たかおさん)~人々の祈りが紡ぐ桑(そう)都(と)物語~」。絹産業が盛んだった八王子市は「桑都」と呼ばれ、霊山として崇められてきた高尾山を信仰し、山を守ってきたのです。高尾山の参道には、杉苗を何本奉納したという札が延々と掲げられています。自分の願いが成就したときに杉の苗を奉納するというもので、なかには「杉苗壱億本」と書かれた石碑もあるそうです。どんなお願いをしたのでしょうか?
杉並木を歩いていくと「たこ杉」に出合います。昔、薬王院へ続く道を天狗たちが工事していると、大きくて邪魔な杉があり切り倒すしかないということになりました。その話を聞いていた杉は、一晩のうちに根をくるくると曲げ邪魔にならないように道を開けたというのです。昔の人は、これを天狗様の神通力と言ってありがたがり、「道を開く」ということで開運の杉として祀られるようになったそうです。
日本遺産を機に、多くの方々に高尾山と八王子の歴史を知ってもらおうと、スマホのアプリを使った音声ガイドを制作することになり、ナレーションを担当しました。収録するスタジオに行って、私はカルチャーショックを受けました。広いスタジオには、パソコンを前にした音響エンジニアと私の二人だけ。他のスタッフは、ズームというテレビ会議システムを使って離れた所にいて収録するというのです。サウンドプロデューサーはご自宅にいらっしゃいます。これまでは、スタジオの隣にある副調整室に大勢のスタッフがいるのが当たり前だったのに……。でも、感染防止のためにはありがたいことです。
広いスタジオで、私は高尾山のさまざまな光景を思い浮かべながら、心を込めて語りました。コロナ禍で急成長してきた最新のIT技術を駆使してお届けする、八王子の古のストーリー、高尾山にいらっしゃるときは、ぜひ聴いてくださいね。