「みんなでたべるとおいしいね、ねえみんな!」という3歳の孫の言葉に食卓が大いに沸いたのは、ほんの数か月前のこと。先日一人でわが家に泊まりに来た孫は夕飯の時「ばあば、しーっ! モ・ク・ショ・ク」と言うではありませんか!? 「モクショク」が「黙食」だということに気が付くまで時間を要しました。幼稚園に入園しお弁当が始まってまだ2,3か月、幼稚園でのお弁当のシーンに初めて思いを馳せました。
孫は好き嫌いが多いので、私は食事の時に多摩動物公園で購入したキツネの「コンちゃん」とアザラシの「シロ君」というぬいぐるみをよく使います。「あ、それおいしいよね。コンちゃんにもちょうだい」と食べたそうにすると、「ダメだよ、これは僕が食べるの」という具合に。それが楽しくて、孫の方から「コンちゃん」と「シロ君」のリクエストがあるほどです。この日も私がぬいぐるみを出そうとしたら、孫から「しーっ」と言われてしまったのです。
幼いころのわが家の食事シーンは、まさに「しーっ」で、おしゃべり厳禁でした。正座を崩したり片肘をつこうものなら、父からぴしゃりと叩かれました。父は、無口でまじめを絵に描いたような人でした。夕食時はNHKの「7時のニュース」を見るのが日課でした。
ところが、私が出産し孫ができたころから父は変わりました。孫を連れて実家に行くと大喜びで迎えてくれます。そのころ私はNHKの「きょうの料理」を担当していたので「食習慣は大切だ、みんながずっとテレビを見たまま食事をすることは作った人に失礼だ」ということなどを、よく父に言っていました。その言葉が響いたのか、食卓を囲むときはテレビを消しておしゃべりをしながら食事をするようになりました。この頃から、父はよく冗談を言うようになりました。
先日、男性のための婚活講座を担当した時、何を話したら良いかわからないという質問を受けました。緊張して食事ものどを通らないという人がいるかもしれませんが、「一緒に食べること」は相手との距離を縮め、相手を知る絶好のチャンスです。
「おいしいね、スパイスが効いているね、この野菜何だろう」。どんなことでも良いので自分の感想を伝えてみましょう。自分の食べ方が早すぎたり濃い味が好きだったり、会話をすることによっていろいろな発見がありますよ。
手元にあるNHKの「発音アクセント辞典」には「黙食」という言葉は掲載されていません。コロナ禍に市民権を得た言葉なのでしょう。「みんなでたべるとおいしいね、ねえみんな!」早くこの言葉を聴きたいです。