八王子市の車人形が、令和4年、国の重要無形民俗文化財に指定されました。車人形とは、「ろくろ車」と呼ばれる箱に座って操る人形芝居です。文政8年(1825年)に今の埼玉県飯能市に生まれた初代西川古柳(にしかわこりゅう)によって考案されました。それまでは3人で1体の人形を操っていました。それをろくろ車を使って一人遣いに改良したのが車人形です。先日、その祝賀会が行われ、私も発起人の一人として参加しました。
これまでも車人形を見る機会はあったのですが、遠くから見たので操作の仕方はわかりませんでした。今回は最前列の真正面で見ることができたのです。ろくろ車は想像していた物より小さな箱でした。前に2輪、後ろに1輪の木製の車輪があり、後ろに体重をかけると方向転換ができるのだそうです。遣い手はその箱に座り、右手で人形の右手、左手で人形の左手と首、そして右足の親指と人差し指で人形の右足のかかとの部分を挟んでいます。左足も同様に人形のかかとの部分を挟みながら操っています。こうすることで人形の足を直接舞台につけて演技することができるので躍動感が生まれます。両手両足別々の動きをしながら、滑らかに箱車を動かしているのです。嘆いたり喜んだり、人形の心情まで伝わってきます。人形に影のように張り付いている人形遣いを見たら、人形と同じ表情をしていました。人形と一体になることで、人形に命が吹き込まれるのだと実感しました。
5代目西川古流座の家元は、新しい試みもしています。9月に行われた「伝承のたまてばこ~多摩伝統文化フェスティバル2022~」では、「HIKARIのたまてばこ」という演目に挑戦していました。プロジェクションマッピングを駆使し、ブレイクダンスの青年たちと車人形との共演を実現しました。躍動感と静謐(せいひつ)感、対照的な雰囲気を光が彩っていました。伝統を継承するだけではなく、新しい取り組みをすることで新たな魅力や可能性が生まれてきます。
西川古柳座は、小学校や幼稚園でも積極的に公演しています。祝賀会では、幼稚園児たちの声を録音したかわいらしい「おめでとうメッセージ」も披露されました。家元はご挨拶の中で、「子どもたちに見てもらい実技指導などもしている。きょう出演した若者たちは、そうした公演を見て車人形の世界に入ってきてくれた」とおっしゃっていました。伝統を守りつつ新しいことにも挑み、海外公演も重ねている八王子車人形。伝統芸能の未来に向けて一筋の光を放っています。
西川古柳座のHPより引用。演目は「平家物語」