私が財団の理事長になってから間もなく3年。講演や話し方研修会、朗読講座の講師の仕事がすべてなくなってしまったときに、思いがけなく故郷の財団の理事長というお役目をいただいたのです。
人との接触が限られた3年間でした。でも、制限も緩和され日常が戻りつつあります。財団が管理運営している市民センターでも、ようやく文化祭やセンターまつりなどができるようになりました。
「理事長、今度うちの市民センターで講演をお願いできませんか? 理事長は公民館のこと、よくご存じでしょう。地域づくりについてお話しいただきたいんですよ。アナウンサーの仕事や話し方のコツについてもお願します」。ある市民センターの館長に頼まれました。「できれば朗読も。とても感動したので地域の人にも聞いてほしいと思っています」。昨年私が開いた朗読公演にお越しくださり感動したとおっしゃってくださいました。ヤッター! その場でジャンプしたくなるほど嬉しいオファーでした。笑顔を絶やさず穏やかな語り口のその館長は80歳近いのでしょうか、地域のまとめ役として長らくご尽力くださっています。私は喜んでお引き受けしました。館長と相談し、テーマは「笑顔で広げる地域の和」にしました。
講演当日、私は張り切って出かけました。会場は市民センターに併設されている体育館です。役員の皆さんが手際良くイスを並べ消毒し、演台に花を飾り私用に電気ストーブを置き、フワフワの温かいスリッパまで用意してくださいました。至れり尽くせりです。
見事なチームワークに感心していたら、音響係の方が、朗読のBGM用に私が持参したCDが再生できないと言うではありませんか! そればかりかマイクも故障して使えないことが判明。昨日チェックした時は大丈夫だったのにと、申し訳なさそうにおっしゃいます。体育館中に聞こえるような大きな声で90分間話すのは無理です。なんということでしょう……! 以前から調子が悪かったのに手違いで修理してもらえなかったそうです。財団の管理ミスです。怒りをどこにぶつけたらよいのやら複雑な心境でした。でも、音響機器の差込口に爪楊枝を添えたら音が出たそうです。接触不良だったのです。爪楊枝にこんな活用法があったなんて! 細い体でよく頑張ってくれました。
講演が終わると、地域の方々が「来て良かった。楽しかった」と声をかけてくださいました。「笑顔で広げる地域の和」がテーマなのに、講演前に私だけ険しい表情をしていたのではないかと気になりました。